またまたストームブレーカー関連の記事です
以前からMUKAを使っていて「プレヒートなくて便利だな〜」くらいにしか思っていなかったが、ストームブレーカーを買ってみて「なぜプレヒートが不要なのか?」と疑問に思うようにたった
特許でもでてるのかと思い、「新富士バーナー」で特許検索をしてみると、ビンゴ!!
新富士バーナーの特許で発明名称「燃料バルブ」というものがでてきた。MUKA、ストームブレーカーの凄いところはコンロそのものでなく、実はポンプ(バルブ)の方に秘密があるようだ
(発売当初から色々な賞を取ったりして、「凄いらしい」ということは認識していたが、なぜ凄いのかを解説しているところはあまりなかったので、この特許を見て納得した)
特許の明細は公開されているものなので誰でも閲覧可能!全部読むと大変なので、この発明は何が凄いのかピックアップして解説をしてみよう
「燃料バルブ」の特許
特許公報を見ると以下の内容で公開されている
この記事で紹介する図や説明は以下の特許から引用する
出願人 | 新富士バーナー株式会社 |
発明の名称 | 燃料バルブ |
特許文献の番号 | 特開2012-117764 |
公開日 | 2012.6.21 |
特許明細の中身は大まかに次のようになっています
- 技術分野・技術的な背景
- どのような分野の発明なのかの説明
- 最近のガスバーナーはこんな感じで、こういう技術があってこんな風に使っているんですよ、みたいな内容。発明に対して今の技術はどんなものがあるのかの説明
- その発明が解決しようとする課題
- 「今の技術だとこんな問題があって不便なんです」とか「今まではここが難しくて思うようにできなかった」みたいな課題があって、この特許ではそれを解決しますよ、という説明
- 手段や方法、特許の範囲
- 上の課題に対して具体的な解決策(発明)の説明と特許の権利をここまで適用しますよ、という説明
技術背景と課題
■メンテンナスが面倒
アウトドアで使ういわゆる「ガソリンストーブ」は燃料タンクから液体の燃料をバーナーヘッドに送り込み燃焼させている。適切な燃焼を得るためには精度良く流量の調整が必要になる。従来の技術だとニードルバルブ、ボールバルブ、レギュレータバルブを使って流量の調節をしているが、それぞれ精度の高い流量調整はできるのだけど自動車のレギュラーガソリンを使うと不純物が多いため燃料を調整している細い流路(オリフィス)に煤や異物が詰まってしまったり、レギュレータだと部品点数が多くなり複雑で高価なものになったりとデメリットもある。
ガソリンストーブを長く使っていると上記の理由でメンテナンスが必要になり、構造が複雑だと煩雑だったりメンテが難しくなってしまう
■プレヒートが必要
今までのガソリンストーブは安定燃焼の前にプレヒート作業が必要になり、その作業自体が煩わしかったり、プレヒートの煤で汚れてしまうことが嫌がられる一因でもあった
どんな方法で解決しているのか?
さてさて、ガソリンストーブのデメリットは「課題」で挙げたように皆さんごよく存知だと思うが、SOTOのガソリンストーブはその問題点をどのように解決しているのか?
バルブの構造
特許の肝であるデメリットを解消するための発明はポンプの中の仕組みにある。ダイヤルの下についている部品がダイヤルとともに回転をして[点火〜着火〜調理〜消火]の各工程で適切な燃料と空気の供給を行うようにできている。
図の9番は液体燃料供給用のチューブ、10番は空気と燃料の混合気体を供給するためのチューブとなっている。液体と気体を別々に供給できるというのがミソで、プリヒート不要を可能にしているポイント。別々に供給できるから色々な工程で微調整が可能になっている。
以後の説明では「燃料」は液体燃料、「空気」は燃料と空気の混合燃料のことを指す。
▼ポンプとタンクの断面図
図の13番がダイヤルの下にある円柱状の部品。9と10の燃料ホースからの供給部分が円柱状の柱に垂直に接続していて、接続部分はOリングでシールされている。円柱の側面に溝が掘られていてダイヤルを回した位置によって燃料と空気の供給の割合がコントロールされる仕組みとなっている。
このポンプは緊急遮断機能を持っていて、ダイヤルを押し込むと空気も燃料も遮断される。上の図がダイヤルが押し込まれた状態、下の図が通常の着火〜燃焼〜消火で使うダイヤルが飛び出した状態。
実際にポンプをいじりながらこのバルブ部分の図を見ながらイメージしてみると理解しやすい
▼バルブ、ポンプの流量調整機構部分の断面図
下の図では円柱に溝が切られているのが分かる。9,10の接続位置とこの溝が重なると燃料と空気がそれぞれバーナーへ供給される。もちろん溝の位置は燃料と空気の供給を同期させたりずらしたりすることができる。そのため工程ごとの適切な供給ができるというわけだ。
▼バルブの円柱部品
ダイヤルの位置によってどのように燃料と空気が供給されるのかを説明しよう。
▼ダイヤル
▼ダイヤル位置による円柱側面の図
まずStart(点火)位置では大量の空気と液体燃料が供給される。圧縮された空気と一緒に液体燃料が供給されるためプリヒートを行わなくても燃料が気化して燃え続けることができる。プレヒート不要と言うよりはこの作業がプレヒートに相当する。そのため最初の点火後ジェネレーター部分が十分に温まり青い炎になるまでに数十秒かかる。
この作業によってせっかくポンピングした圧力が消費されてしまうため通常燃焼の前にもう一度十分なポンピングを行わなければならない。
次にRun(通常燃焼時)の強火〜中火〜弱火の断面図を見ると、空気の供給は停止されている。燃料の方は火力が小さくなるにつれて溝も小さくなっているのが分かる。ニードルバルブ以外の方法で精密に流量をコントロールしている仕組みは溝の幅が変化する構造にある。
最後にAir(排気)の断面図を見ると燃料の供給が停止され、空気のみ供給されるようになっている。この工程ではタンク内部の残圧を抜き安全に燃料を運搬・保管できることと、エアの圧力でタンクからバーナーまでの流路内をクリーニングする目的がある。レギュラーガソリンの不純物による詰まりが課題にあると冒頭に書いたがこの作業で詰まりの抑制をしているようだ。
残圧が抜けきったらStopの位置にダイヤルを回し押し込むと、燃料も空気も遮断され安全にタンクを持ち運べるようになる。
使い方の記事でも書いたが、タンクの水平が空気と燃料の供給を分離する姿勢となるためタンクの向きが重要となる理由が理解できる
このバルブで解決できること
上の説明と重複するがバルブ構造の発明によって解決できることをまとめるとこんな感じになる。
- プリヒート不要(プリヒートによるすすがでない)
- 緊急停止機能がある
- 一定方向に回すことで完結するわかりやすいダイヤル
- 消火時に空気を排出することで不純物を流路に貯めない、長期間使用できる
- 安全性向上(従来のプレヒート作業がない!)
発売当初、いろいろな賞を獲ったりしてガソリンストーブとしては画期的なものらしい。
感想
2018年3月発売のストームブレイカーを手にして、「これ面白いな!」といじくり回して色々調べているうちに特許にまでたどり着いてしまった。便利なものという認識はあったけど、なぜ便利になっているのか仕組みを理解していくと、ただの「便利なもの」から「便利で面白いもの」になっていく。さらにこの構造を考えついた人に対する賞賛の感情も入ってくると、このバーナーに愛着みたいなものが湧いてくる。構造を理解することで手順の多いガソリンストーブでも自信を持って使えるようになった気がする。
作った人の発明秘話とかあれば聞いてみたい。どなたか取材してくれないだろうか。
参考文献:新富士バーナー株式会社 特開2012-117764
コメント
詳しい説明、とても勉強になりました。
仕組みを知ったことで、さらに愛着がわきました。
1つ質問なのですが、着火時に内圧を消費した後、追加ポンピングしますが、この時は、ボトルはどのような姿勢でされていますか?
私は、寝かしままポンピングしていましたが、非常にやりづらいです。
特許図の10が液面上、9が液中の状態を維持するしたまま、ボトルを立てれば、立ててポンピングしてもいいのかな?と思ったのですが、管理人さんはどのようにされていますでしょうか。
コメントありがとうございます。
追加のポンピングは私も倒した状態でやっています。あれは非常に作業がやりづらいですよね。
ボトルを立てのポンピングについては、仰る通りでプリビートが完了していれば燃料ノズルが液面より下側にある状態であれば、どんな姿勢でも使えてしまうのではないかと思います。
タンクとポンプの向きに指定があるのは、最初のジェネレーター加熱の手順でしっかりとガソリンを気化させるためですね。
ガソリンの残量やタンクの容量にもよりますが、早めにプリビートから通常使用に切り替えることで空気の消費を少なくすることができます。意外と追加のポンピングが無くても安定して使えています。
切替のタイミングが早すぎると液体のままガソリンが吹き出して危険ですので、その点はご注意ください。
ご回答ありがとうございました。
通常使用の切り替えタイミングや、ポンピングの態勢など工夫して使っていきたいと思います。